インタビュービジネス制作映画

矢口史靖監督と「開かれた映画」とミュージカル観

「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」といったエンタメ映画のヒット作を監督し、今年は「ダンスウィズミー」でミュージカル嫌いな女の子のミュージカルというまた一癖ある映画を監督した矢口史靖監督。今年「映画監督はサービス業です。」というロングインタビュー本が出版されたので入手してみた。これまでのそれぞれの作品に関する非常に丁寧なインタビューで、とても興味深く読むことができた。

その中からいくつかの言葉を紹介していきたいと思う。

矢口監督といえばやはり平たく言うと「面白い映画」、日本映画に多くみられる重さや湿度のない、からっとした楽しく誰でも安心して楽しめる、また家族で見ても安心して見られる映画を発表しているというイメージがあるのだが、監督自身もそこは意識をすごくしているようだ。この本の中にたびたび「万人に開かれた映画」というニュアンスの表現が出てくる。

 

「ウォーターボーイズ」を引き受けると決めた時、開かれた映画を作りたい、という気持ちがより顕著になっていたので、チャンスだと思ったんです。とにかく置いてけぼりになる人がいる作品にはしないと決めていました。すべて分かるし、面白がれる。(P70)

 

このブログの筆者P自身は広告業界に長く身を置いていたのだが、感覚としては非常に似ていると感じる。ある商品の広告を作るとき、ターゲットは絞るものの、そのターゲットの誰もがメッセージをたやすく受け取れる、そのような表現を行うことを常に意識する。「分かる人には分かる表現」を選ぶというのは基本得策ではない、という世界なのだ。

その矢口監督の「開かれた映画」への強いモチベーションというのがいったいどこから来ているのかは残念ながら実はこの本では明らかにされていない(ご本人があまり語ろうとされていないのかもしれない)。

その一方で、矢口監督の映画の着眼点はいつもちょっと斜に構えているというか、世の中に対するシニカルな視点を大事にしている。今回の「ダンスウィズミー」に関しても語っているのだが、その企画発案にまつわる発言が非常に面白い。

 

”催眠術”をきっかけに突破できると、「急に歌ったり踊ったりするのは変だ」とはっきり言えるミュージカルを作れると思ったんです。ミュージカルの世界では誰もそれを指摘しない。「そういうものだから」といわれてきたけど、その鉄則を破って、歌ってる人を不審者扱いするミュージカルを作れるなと。そのためのスイッチとして催眠術が浮かんだ。音楽が聴こえるとどうしてもミュージカルをしでかしちゃう。(P171)

 

ミュージカルを否定するミュージカルとでも言おうか、それにしても「不審者」とはすごい表現で、そのシニカルさが矢口監督らしくて面白い。

矢口監督は舞台のミュージカルよりもミュージカル映画のほうがより不自然さがある、という主張をこの本の中でされている。理由としては映画のほうが普段見たことある景色の中で歌って踊るぶん、不自然だから。

この話はだいぶ余談にはなるが、筆者個人的には実は逆の意見で、筆者はミュージカル映画は気にならないけど舞台のミュージカルのほうが不自然な感覚をより強く持っている。舞台は舞台という虚構的な空間に構成され、舞台装置とかにリアリティがない分、その分作品の送り手はなおのこと「この舞台の上は現実だからね」という暗黙の了解を観客に対して要求しているような気がするので、その分不自然さが目立つと受け取ってしまうのだ。逆に映画はスクリーンという面を通して見る分、確かに日常の風景がそこにはあるが、逆に虚構であるということを主張しているように私には思えるので、昔から個人的にはミュージカル映画は好きで、舞台は感覚的に苦手、という意識を持っていた。

来月トークイベントでお会いできるので、お聞きできるのであれば聞いてみたい。

 

【お知らせ】

いよいよ開催

「ウォータ-ボーイズ」「スウィングガールズ」を生み出したエンタメ映画界のヒットメイカー、

「矢口史靖監督」に、

あなたが直接「アイデア」について話を聞いてみませんか?

 

日時:2019年12月14日(土)   19時開演

場所:しもきたドーン

東京都世田谷区北沢2-25-8 東洋興業ビル3F 3B-2

出演者:

ゲスト 矢口史靖監督

聞き手 加藤淳(かとう・じゅん)(ライター/インタビュアー)

 

イベント詳細はデジタルチケット「PassMarket」のイベント掲載サイトにアクセス!

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