インタビュー映画

細田守監督と入道雲と「東映の経験則」

細田守監督と入道雲

「サマーウォーズ」(2009)で日本アカデミー賞 最優秀アニメーション作品賞を受賞、また「未来のミライ」(2018)はカンヌ国際映画祭でプレミア上映されるなどいま最も注目されているアニメーション映画監督の細田守氏。以前ご紹介した「映画の言葉を聞く」で是枝裕和監督がインタビューをしている。その中からご紹介したい言葉を引用する。

 

是枝:入道雲はお好きですよね?よく描かれている。

細田:以前は飛行機雲をよく描いていたんです。飛行機雲というのは、「いまいる場所からもっと遠いところに行こう」という気持ちを沸き立たせてくれるでしょう。だからよく飛行機雲を描いていたんですが、最近は入道雲のほうが描くのが楽だなと(笑)。入道雲があれば、ワンカット完成するので。

是枝:絵になりやすいってことですか?

細田:そう。絵が大きいし、象徴性がある。子どもの成長とかね。これは東映の誰かがいっていたんですが、映画は季節ごとに当たるテーマが決まっているというんです。たとえば、正月はめでたい時期だから、ハッピーエンドなものを。春は出会いと別れを。秋は感傷的な季節だから、人生のわびさびを。そして、夏はやはりスカッとする作品が適しているんだと。一見冗談みたいな図式ですが、たぶん東映の経験則でもあって、一理あるんじゃないかなと思っています。(P160)

 

2つの内容が一つの引用箇所に含まれているので若干混乱させてしまうかもしれないが、2つ興味深いことを言っていると思った。一つは、入道雲がワンカットとして成立する、という話。実写と違ってアニメは意図的に描かないといけないので、どんな空の雲を空に描くにしても狙いを持って描く必要がある。雲にもいろいろあるが、入道雲というのは雲の中でも絵の大きさ(スケールの意味だろうか)と象徴性において優れている、だから積極的に選ぶ、ということなのだ。ふだん生活してときとして空を眺める者としては「まあそりゃそうだよな」という話なのだが、その最初の印象をおいておいて、私が思ったのはこういうことだ。物理的には雲は平等(気象条件によって変わるだけ)だと思うが、映画の画面に描いたときに持つ意味にはだいぶ格差があり、特に夏の入道雲というのは(入道雲と地上の人間の物語にはなんの関係もないが)存在として強い、ということだ。なんとなく何が言いたいのかわからないかもしれないが、自然現象が物語において自然現象以上の意味を持ってくる、監督が持たせるということが明確に映画監督の言葉で表明されているというのはとても興味深いと思った。

そしてもう一つは、言葉というか「東映の経験則」の話である。入道雲と話がつながっているが、結局は季節的な環境の要素(祝い事、年度の節目や気温や太陽の明るさなど)が人間の気持ちに影響を与えていて、それに呼応するような映画作品がいいんだという話である。ハッピーエンド、出会いと別れ、人生のわびさび、スカッとするストーリー、なるほどです。ただこれだけだとドラマカテゴリーに限られているような気もするし、映画の要素としては網羅性が高くないのかなと思ってしまいました。これはあくまでも一つの参考情報という理解をしたほうがよいですね。

これからはこの経験則を頭の隅におきながら邦画の映画公開情報を見てみようと思います。

 

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