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是枝裕和監督の映画ビジネス、映画制作の現場論

世界といまを考える1 是枝裕和対談集

今回は「万引き家族」が第71回カンヌ国際映画祭 パルム・ドールを受賞し、この秋に「真実」という映画が公開になる是枝裕和監督がいろいろな方と対談している本「世界といまを考える 1」から是枝監督の言葉を紹介しようと思う。

 

この対談集には11の対談が収められていて、紹介したい言葉に満ち満ちています。

ここでは同じ制作者集団「分福」に所属する西川美和監督と、砂田麻美監督との3人の鼎談から映画ビジネスや映画制作の現場に関わるいくつかの言葉を紹介したい。今回は独自の考え方、というよりは業界への提言というような内容の言葉を紹介する。

 

まずは映画というプロジェクトが始まるときの、準備段階のお金の話から。

 

砂田 脚本を書いている間というのは基本的にゼロ円なわけじゃないですか。

西川 そうね、貯蓄を食いつぶして。

砂田 その間にCMとか、ほかの短期的な仕事があれば、多少生活が成り立っていくけれど、それがない場合、本当に書いている間というのは1円も入ってこない。それが映画で食べていこうとする人たちの苦労ですよね。

是枝 だからなるべく企画開発費をもらうようにしているんだよね。監督の側から企画を立案して持ち込み、イニシアチブをこちらが持つという形で映画がスタートし、その映画に見合った出資者をセレクションして選ぶという、本来あるべき形を貫こうと。業界的にはまったく理解されないけどね。「それは制作費の一部なんじゃないか」とか「プロジェクト化されたときに制作会社から払えばいいんじゃないか」という発想のままだから。

(P121-122)

 

私のような業界の外の人間からすると、例えば、映画監督って映画を撮っていない時はどうしているんだろう、とか、あるいは、映画ってどうやってプロジェクトが始まっていくんだろう、というのは、未知の世界です。この文章を読む限り、監督発のプロジェクトというのがあり、その場合は、自分でいろいろ調べたり企画を考えたりして時間とお金を使って出資者が納得できるような企画提案書や脚本を作る。今の映画監督のほとんどの人は会社員ではないだろうから、給料は払われないし、その間は「貯蓄を食いつぶす」しかない。

映画ビジネス全体についてはこの意見だけではわからないのですが、確かに個人で毎回貯金を食いつぶしながら企画や脚本を書くのは非常に大変だと思います。是枝監督はこうした状況に対して意見をしっかり持って状況を変えていこうとしているんですね。

 

続いて紹介する言葉は、昨今の映画の作り方について。前に引用した内容と話はつながっている。

 

是枝 ヒットした原作、みんなが知っているタレント。そこからまずスタートする。次にちゃんと書ける脚本家。最後に監督。でも、それでもちゃんとしたものを撮る監督はいるわけだからね。

西川 そのありようが悪いとは思いませんが、監督発のものももっとあってもいいとは思いますね。いろんな形があって、どれもが成立するような。

(P126)

 

監督発のオリジナルな企画だとどうしても映画に人が入るかどうかのリスクが高い。だから「原作」と「タレント」という人気が保証されているものから始まる企画が多い。出資をする側の立場で「ビジネス」として考えればそれは確かに(いいかどうかは別として)その通りという話ではありますが、西川監督が言うように多様性が確保されていたほうがいいですよね。最近は原作もののなんだか似たような映画が多い気がしますし。

最近ではクラウドファンディングなどの新しいシステムはありますが、まだ何か新たなシステムが生まれる必要がありそうですね。お金と企画が出会う仕組みが。

 

続いて、お金の話から変わって、制作の現場、役割論とでもいうのでしょうか、に関しての言葉です。

 

是枝 助監督と監督助手の話に戻ると、自分がテレビのADを経験したときに、なぜこんなにクリエイティブじゃないんだろうと思ったわけ。会社に寝泊まりが普通で、3日帰れないとか、ただ怒鳴られて、(中略)疲弊していく。それは僕自身がクリエイティブに仕事に取り組むことができなかったということでもあるけれど、創造性を持つことを拒絶していくシステムでしょう。

西川 うん。

是枝 絶対間違っていると思うんだよね。だから、そうではない形の職業の捉え方というのがどうしたらできるかを考えた。「俺が右つったら右に走ればいいんだよ!」ではなく、「どっちに行けばいいと思う?」といえるディレクターや監督になりたいと思った。そのほうが結果的には作品は良くなるだろうという発想を持ったことが、たぶん出発点だと思います。

(P141)

 

この鼎談の別の個所を参考にすると、特に監督助手は監督に意見をする役ということらしいです。もちろんこれだけだは映画制作の現場でどのような光景が繰り広げられているのかわからないのですが、是枝監督が周りのスタッフのクリエイティブ的な総力を結集していい仕事をしようとする姿勢の監督なのだということがわかりますね。

 

 

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