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若松孝二「映画なんて誰でもできる」

若松孝二インタビュー

 「止められるか俺たちを」という映画が先日公開され、注目が集まっている若松孝二監督。1936年に宮城県に生まれ、様々な職を転々としながら映画の道に入り、ピンク映画でデビュー。その後、ベルリン国際映画祭での受賞やカンヌ映画祭のある視点部門への出品などの功績も残されています。

監督の没後にまとめられたムック本「若松孝二 闘いつづけた鬼才」(文藝別冊/KAWADE夢ムック 2013 河出書房新社)にインタビューが掲載されていますので今回はその中から気になる言葉をご紹介したいと思います。

 

若松孝二「闘いつづけた鬼才」
若松孝二「闘いつづけた鬼才」

このインタビューは釜山国際映画祭で2012年に行われたもの。聞き手は梁時榮(釜山国際映画祭執行委員)タイトルが挑戦的で、「映画なんて誰でもできる」というものです。

 

冒頭辺りでまず驚いたのが、タイトルにも関係するのですが、1本の映画の撮影期間がなんと2週間だというもの。

 

(2010-2012に公開された映画を1年で撮ってしまったということについて)

梁 でも どれくらいの期間でやっているんですか。1年に3本ってなかなかできないですよね。

若松 そんなことないです。見た人もこれから見る人もいると思いますが、どれも二週間もかけていないです。

梁 今の若い監督は、日本も韓国もそうだと思いますけど、ものすごい準備期間を設けてリハーサルを重ねて、時間をかけて映画を撮っているじゃないですか。そういった撮り方とは監督は違うんですね。

若松 僕はプロですからね。

梁 彼らはプロではないと。

若松 だと思いますよ。だって俳優さんは演じてくれるし、カメラはあるし、ただ自分の脳味噌に浮かんだとおりに俳優さんがやってくれれば、次から次に撮れるんじゃないですか。

 

このインタビューは映画祭の中で行われ、観客には映画業界志望の人が多いという状況なので、若松監督が生い立ちから映画監督になるまでを語っている。そしてタイトルにある「誰でも撮れる」というテーマについての発言がそのあとに続く。

 

若松 ・・・それで必ず言うことは、映画をつくりたい人でも何でもそうですけど、「スタンバイをしなさい」ということです。(中略)僕は助監督時代、大学ノートにカット割、アップとかルーズとか、いろんなカットを百くらいもっているんです。全部切り抜いて貼ってある。監督になったとき、カメラマンに「このカットでお願いします」と大学ノートを見せてやった。(中略)何が撮りたいかというのが自分にあれば、だれでも撮れるんだよ。

 

途中を略しながら引用しましたが、「ディレクション」ということの本質をついている発言だと思います。そして、この発言は映画に限らず、何かを造るときやビジネスにおいてもいえることだと思います。

例えば普通の人でも似たような状況が起きる時があって、その一つは自分の家を建てる時。家を建てる時は基本的には専門家(工務店やハウスメーカー)にお願いする。普通の人は別に家の建て方など知らない。施主となった普通の人としては、彼らに対して「こういう家にしたい」という希望を言う。天井を高くして開放感をもたせたい、キッチンとダイニングを家族が集まる中心にしたい、ときにはひとりになれるところがほしい、などなど。「どうしたいのか」ということがあれば、それを受け止める専門家(建設・建築の技術を持った人たち)が具体化する。天井は何メートルにする、キッチンとダイニングの周辺の動線を考えてレイアウトする、人一人が座れるくらいの小部屋をどこかの隙間に組み込む、などなど。それがディレクションのあり方なのかなと。

大人数で何かを造るというときには、ディレクションする側(ディレクター)と、ディレクションを受けて実制作する側(専門家集団)がいて、その協働によって造る。映画監督は、前者である。

ディレクター側は、どうしたいか、映画であればどんな映画を撮りたいのか、というのを明確にする。それもぼんやりしたレベルではなく、相手の専門領域にもある程度入り込んだ知識を仕入れて行う。若松監督がいろいろなカットを勉強してノートに持っているというところがそれだ。ただし、ここで指示内容が専門領域にあまり入り込みすぎると、専門家側が持つ、ディテールの質を高める技や知見が活用できづらくなるので注意が必要だ。

実はこの相手の領域への入り込み加減が難しい。その時々の関係性の中での正解しかないのだと思うが、基本要素としては相手に対する敬意が重要だと思う。ディレクション側は、相手の専門性に敬意を払う。相手の意見を聞く。相手からの提案の要素を取り入れる。

映画の学校で勉強したわけでもない(農業高校出身とのこと!)という経歴で100本以上の映画を撮り、そしてこのインタビューで「誰でもできる」、と発言した若松監督は、大人数で何かを造るとき、専門家にお願いして何かを造るときの大事なことの一つ、それは専門家と対話するための準備であり、対話するための覚悟でもある、を教えてくれていますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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